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宇宙教育とは

皆さんは、宇宙教育を学びやロケットを飛ばすと、どんな人間になれると思いますか?

ロケットを飛ばすことに挑戦したい方も、まだ悩んでいる方も、一度【宇宙教育が育てる人材】を読んでみてください。

そこには、あなたがまだ出会っていない、「未来のあなた」がいるのかもしれません。

宇宙教育が育てる人材

和歌山大学 協働教育センター 教授
千葉工業大学 惑星探査研究センター主席研究員
内閣府宇宙開発戦略推進事務局 宇宙政策委員会専門委員
秋山 演亮

「宇宙教育を行っています。」
そうお伝えすると、「宇宙に詳しい人材を育てているのですね」とお返事をいただくことが、度々あります。確かに、「宇宙教育」という名前から想像されるものは、宇宙に関する専門知識を有した人材育成なのかもしれません。

しかし、実際に宇宙教育を通じて学んできた人材は、管理能力・調整能力を備えた、どんな企業にとっても必要な「人と人を繋げる」ことができる人間です。私たちの行っている宇宙教育では、「ロケットを飛ばす」というSTEM教育※1を通し、プロジェクト を学び、実労働者・技術者・研究者・マネージャーと順に力を付けながらステップアップしていきます。
宇宙教育を通じてどういった人材が育っていくのか。早速、ご説明して参りましょう。

※1 STEM教育とは、科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・数学(Mathematics)の4つの頭文字から作られた言葉です。

SORA EDUCATIONはチームプレイを学ぶ
「宇宙教育の第二段階」

宇宙教育には、大きく分けて4つの段階があります。
まずは、小学生から高校生までをメインの対象と考えた、「宇宙を利用した科学技術全般に対する萌芽的な教育」。こちらでは「宇宙への興味・楽しさ」をトリガーに、宇宙を「学びの入り口」として教育を行っていきます(アクティブラーニング) 。
例えば、家庭科の授業で「衣食住」について学ぶとき。衣服は、身体を守る機能がありますが、学生にその実感はなく、なかなか興味を示しません。しかし、「宇宙服は何のためにあるのか」を考えさせると、「身体を守るため」という衣服の必要性、衣服の効果を理解できます。このように、宇宙を入り口・きっかけとして、教育全体に対し興味を抱いてもらう。宇宙は子どもにとって、とても楽しく、興味を惹かれるもの。宇宙の楽しさをきっかけに、宇宙以外を学ぶ。それが、「宇宙を利用した科学技術全般に対する萌芽的な教育」となります。こちらは主に座学を中心として個人で学んでいく分野です。


そして次の段階が、高校生から大学生をメインの対象と考えた、「一般的なプロジェクトマネジメントに関する実践的教育」となります。私たちが「SORA EDUCATION」の対象 として実施している「缶サット」・「ハイブリッドロケット」・「バルーンサット」がこの段階。
宇宙に対する興味をきっかけに、STEM教育に加えて、 チームとして動く「プロジェクトマネジメント」を学んでいきます。
この段階を越えて、やっと「宇宙関連技術・知識に関する専門的教育」で宇宙の知識を学び、「巨大プロジェクトと宇宙関連技術に関するOJT」という、絶対に失敗できない規模で行われる宇宙への挑戦があります。数百億円という巨大な規模で、絶対に失敗できないことを、失敗しないよう学んでいくものです。

しかし、私たちが行っている、高校生から大学生を対象とした「一般的なプロジェクトマネジメントに関する実践的教育」。こちらでは、失敗してもいいのです。
私たちは、あくまで「ロケットを飛ばしてみませんか」と学生に投げかけるだけ。材料も、ロケットの設計図すら与えません。「ロケットを飛ばそう」「どれくらい飛ばそう」「どんなロケットを飛ばそう」。それぞれの学生たちが、自分たちの目標を決め、試行錯誤し自分たちの作ったロケットを飛ばす。学生たちがチームを作り、自ら調べ、実践・失敗し、更に改善してと、学び進めていく宇宙教育なのです。

チームで技術を学び、社会を知る

私たち「SORA EDUCATION」が学生たちに与えるのは、「ロケットを飛ばす機会」。「ロケットを飛ばす」と決めるのも、「どんなロケットにするか」を決めるのも、参加者である学生たちです。
私たちは「ロケットを飛ばす」というプロジェクトを、学生にとってベターなアクティブラーニングになると考えています。まず、SORA EDUCATIONで開催される規模のロケットは、決してひとりで飛ばせません。複数人を集め、チームで飛ばす必要があります。また、ロケットを飛ばすのに必要な人数は6~8人と、マネジメント体験をするのにぴったりな人数。3~4人では少なく、10人になると数人サボる人間が出てきます。全員働かないとロケットを飛ばせない、その人数が6~8人なのです。

©JAXA

「ロケットを飛ばす」。言葉で表現すれば、とても簡単に聞こえるものです。過去、たくさんの技術者たちが様々なロケットを飛ばし、宇宙との繋がりを持ってきました。技術は、既に複数存在しています。しかし、既にある技術を「知っている」ことと、技術を「使える」ことの間には、非常に大きな差があります。

例えば、高圧電線。町中に張り巡らされ、ごくありふれた技術に見えます。一見すると、ただ柱と柱の間に線を張っているだけ。しかし、そこにはたくさんの問題があり、それを解決する無数の技術が詰まっています。ただ線を張るだけでは、電線が揚力を発生し 、電線同士が触れてしまう危険性があります。雪が積もった場合に備えて、自動的に雪が落ちる仕組みまで組み込まれています。町中にありふれている高圧電線は、大きな自然の力にひとつずつ対応した上で成り立っているのです。

そして、ロケットも同じ。バルーンサットでは成層圏まで、キューブサットでは宇宙までロケットを飛ばしていきます。ロケットを飛ばすには、様々な人的問題・自然の力を乗り越えていく必要があるのです。

調べればすぐに見つかる技術ですが、それを、自ら追体験する。技術を探し、設計図を書いたとしても、そこで終わりではないのです。設計図を叶えるために、材料を集め、部品を作ります。部品を作るにも、どの順番で作り、どの順番でロケットへと仕上げていくのかを計画します。テストを行い、失敗し、またやり直して……。既にある技術を、その通りに作ろうとしても、予想通りに飛ぶわけではありません。想定外のことが、何度も起こります。
技術をチームで追体験し、失敗し、試行錯誤し、学ぶ。自分ひとりではなく、「一緒に飛ばそう」、そう決めた仲間たちと心をひとつにし 、手を取りながら叶えるのです。
学生は、それらの経験から、学びます。
話を聞き、知識を知っているだけでは、本当の意味で「理解」していなかったのだ、ということ。自分ひとりでは、クリアできない、どうにもならないことがあること。自ら手を動かし、またチームの皆も手を動かし、協力し。そうして初めて進むものがあること。失敗して、試行錯誤して。そしてやっと、ロケットを飛ばせること。皆で同じところを目指すことで、ひとつの事を成す。
技術を皆で学ぶ経験を通し、自分自身が社会の一員で、世界の一部で。そして、新しく社会を、世界を作っていけることを知るのです。

磨かれる能力と櫛型人材について

SORA EDUCATIONでは、学生同士がチームを作り、ロケットを飛ばします。しかし、プロジェクトの参加メンバー全員がロケットの設計図を書き、ロケットの部品を作っているわけではありません。なぜなら、チーム内のコントロールやロケットを飛ばすために地域住民への交渉等、様々な事柄をこなす必要があるからです。
学生たちがSORA EDUCATIONを通して学ぶことを、ひとつずつご紹介していきましょう。

作業員から技術者へ

学生たちは、「これをやりなさい、これを覚えなさい」と大人から指示され、その通りにこなすことが自分自身の仕事だと考えています。しかし、それではただの作業員。社会に出れば、ただ指示を待つ人間は「使えない」と切り捨てられてしまうこともあります。
例えば、「酸素をどうすれば作ることができますか」と学生たちに問います。そうすると、「二酸化マンガンに過酸化水素水をかける」という答えが返ってきます。そこまでが、一般的な教育で、正解なのです。続いて「二酸化マンガンや過酸化水素水はどこで手に入れますか」と尋ねると、学生たちは何も答えられなくなってしまいます。しかし、社会に必要なのは、「酸素を作るための方法を知っている人間」ではなく、「実際に酸素を作ることができる人間」なのです。社会で生きるためには、自ら考え、動くことが必要です。

ロケットを飛ばすこと。それは、技術を知っているだけでは叶いません。自分自身で「ロケットを打ち上げたい」と決定し、どう打ち上げていくか、チームの皆で目標を共有し、手を動かし進めていくしかありません。
学生たちがロケットを打ち上げたとき、指示待ち人間だった彼らは、自ら動き出せる技術者へと変貌を遂げていることでしょう。

安全に関する認識を学び、研究者へ

ロケットを飛ばす等の工学技術は、自然や社会を変革・改造する「大きな力」を持っています。そして、「力」が巨大になるに従い、自然・社会に対する悪影響を考慮する「良識」「判断力」が必要となってきます。
ロケットを飛ばすこと。それは、様々な危険を伴う行為です。ロケットを飛ばす際、実験区域という「安全ではない領域」を作り出します。しかし、実験区域を切り離しただけで、実験区域外の周囲・社会は「安心」できるのでしょうか。また、実験区域である「安全ではない領域」では、いかに「安全」を高めるのでしょうか。それぞれを考える必要があります。


安全に対する考え方として分かりやすいものを、左図を使って説明します。ボールが上にとどまっていれば安全、下に落ちてしまえば危険としましょう。黒い線の頂点で留まっていれば、ボールは落ちずに安全です。しかし、一切動かない必要があります。目まぐるしく変わっていく社会で「一切動かない」ということは、そもそもできることなのでしょうか。ここで必要となってくるのは、動かない安心を得るのではなく、動いてもいい安全な領域を作ることです。つまり、赤い線のように、どのようにして安全の範囲を広げるかが必要なのです。安全策を講じ、安全な範囲を持つこと。それが確保できない状態であれば、危険となり「力」を行使してはいけないこと。単なるSTEM教育で終わらず 、プロジェクトを通じて、安全の作り方を学んでいきます。

マネジメント能力を身に着ける

技術者・研究者としてプロジェクトに関わり経験を積んだのち、チームリーダーの任を受けます。チームリーダーの役割は、作業を分担・全体を管理しながらチームとして進めていくこと。しかし、チームリーダーだけが、仕事全体を見ていれば、プロジェクトは成功するのでしょうか。
例えば、プロジェクト開始時、仕事の総量を300と見たとしましょう。メンバーが6人の場合、仕事を50ずつ分担すれば完了できるな、と考えます。しかし、プロジェクトを進めていくと、分担した50の仕事ができていないメンバーが大半だと気が付きます。また、300だと思っていた仕事の総量が、350に変化する場合もあります。結局、足らない仕事は誰が補うことになるのでしょうか。

そもそも、「仕事」とは、正確な分量で分担できるものではありません。左図のように、長方形を6つに分けるのが、「作業」イメージです。しかし、実際の「仕事」となると、きれいに分担できるような形をしていません。各メンバーが全体を見ながら柔軟にカバーしていく必要があるのです。

SORA EDUCATIONでは、チームメンバーでロケットの絵を描くことで、「仕事」の理解と共有、作業の洗い出しを行います。自らの手で描くことで、実際の作業イメージが湧く。それでも足らない場合は、部品を抽出し更に絵を描く。そうして、見えていなかった問題点の発見、解決方法の考察を進めていきます。それらをチームメンバーと共有し全体像を把握し進めていくことで、プロジェクトを成功させることができるのです。
プロジェクトの目標設定と、リーダーとしての自プロジェクトの進め方、取り纏め方を、実践を通し学んでいく。作業の重なりや不足など、目標を全員で共有し、仕事全体をメンバーで見て、柔軟に作業の隙間を埋め、成功させる。これをチームで成し遂げたとき、各々の能力はもちろん、チームリーダーのマネジメント能力が大きく飛躍しています。

ステークホルダーとの調整能力

ハイブリッドロケットは、爆発物・高圧ガスを使わない、安全なロケット。モデルロケットは煙を使いますが、特に教育目的に開発されたロケットです。 いずれも国内で充分な打上実績があり、打上に際しての安全基準も確立しています。しかし、こういった比較的安全なロケットを飛ばすとはいえ、様々な危険が伴うことも事実。そして、無視できないのが、共同実験場の周辺地域で暮らしている方々です。

比較的安全とはいえ、ロケットを飛ばす際は地域住民と充分な議論を行う必要があります。もちろん、地域住民の方にとって、住んでいる場所の近くでロケットを飛ばされることは、大変に不安なことです 。学生の希望と、どのようにロケットを飛ばすことで「安全」を確保するかを説明し、安心していただくことが重要になってきます。共同実験運営者になれば、地域住民の方や周囲にはいかに安全を作るかを説明し、安心を提供する必要が出てきます 。内部に入り実験を行う学生には、安全な実験環境を整えるという役割があります。プロジェクト間の調整だけではなく、自治体や関係省のステークホルダーと交渉・調整する力を身に着けることは、コツコツと手間のかかることですが、今後社会の中で生きていく上で 本人の大きな力となります。

共同実験を行うためには、ロケットを打ち上げる「アクセル」、安全管理責任者の「ブレーキ」、「調整」を行う実験代表・学生運営が必要です。
SORA EDUCATIONではそれらを学生と教員、または、かつて学生として参加したOB/OGが担っています 。社会と話せる人間、審査をできる人間、様々な人材が育つ環境が揃っています。

従来教育との差で生まれる「櫛型人材とは」

多くの教育現場で教員や学生が指向しているのは 、I型人材です。何かに特化したI型人材は、専門家として求められると勘違いされがち。しかし、技術を主体とする企業であっても、本当の「専門家」は10~20%しか必要とされません。企業・社会が求める人材の多くは 、チームプロジェクトを通し、様々な経験を積み自分自身のスキルとして身に着けることで、特化した得意分野にプラスして、全体的にできることがあるT型人材です。SORA EDUCATIONでプロジェクトに参加し、他分野を専門として学んだ人と一緒に働く経験を通して、他分野にも理解のある 櫛型人材へと成長できます。 そして、活動の場を広げながら 、世界に通用するグローバル型櫛型人材になり、世界を新しく変えていける人間へと成長していきます。

個人の能力の限界、社会に生きること

学校の教育では、個人の成績が全てです。個人の能力が高ければ高いほど良い評価を受けます。自分自身が良い成績を取っていれば、他人に足を引っ張られることもありません。しかし、社会に出ると、それは一変します。
例えば、営業成績がトップクラスの社員をAさんとしましょう。営業ノウハウを自分用にまとめ、報酬も充分。トップクラスの営業成績をキープするため、営業ノウハウを同僚に共有することはありません。しかし、同僚の営業成績が振るわず、会社は経営不振で倒産。Aさんは、職を失ってしまいました。

自分自身の営業成績がどれだけ優秀であったとしても、会社が潰れてしまっては、評価を受ける場が無くなってしまいます。また、ひとりで稼げる額には限度があります。ひとりで100万円稼ぐことができれば、10人にノウハウをシェアして1,000万円、100人にシェアできれば1億円稼ぐことができたかもしれません。
失業してしまったAさんには、様々な選択肢があります。ライバル会社に就職し、再び営業マニュアルを共有しないままトップ成績を誇るか。持ち前の営業力を活かし、起業しても良いでしょう。もちろん、次の会社では営業マニュアルを共有する、という選択もできます。
学生の間は、個人の成績を上げれば、それで正解です。しかし、社会に出れば、決まった正解なんてどこにもありません。もちろん、マニュアルもありません。未来は、如何様にも自分で決めることができます。

私たちSORA EDUCATIONが学生に与える「ロケットを飛ばす」というプロジェクト。これは、社会に出たときと同じ経験です。正解はなく、自分自身でゴールを決めます。ロケットを飛ばすこと、それ自体をゴールにしてもいいでしょう。どの高さまで飛ばすのか、距離をゴールにすることもできます。
そして、決めたゴールによって、ロケットの仕様は変わります。 「何ができるのか」「どうすればそれを叶えられるのか」。考え、手を動かし、歩みを進め、ゴールを目指す。
ただひとつの答えなんてありません。自分で決めたゴールに、自分の足で進んでいく。仲間と協力し、必要なゴールを見つめていく。そういった経験の中で、「自分自身もチーム の一員」であることを知ります 。そして、自らの力と、自分の力を頼り・信じてくれる仲間。そして、自らも仲間を信じ、任せる。
ロケットを飛ばす、共同実験場で見る学生たちの背中は、仲間との日々を背負った大きなものです。彼らはきっと、プロジェクトを通し社会の一員として踏み出した魅力的な人間へと変わっていきます。

私たちは今まで、学生たちへのきっかけ作りと、見守ることしか行っていませんでした。しかし、学生たちの評価制度やアワード企画を通し、彼らを必要とする社会・会社へと繋ぎ、送り出していくことを新たなミッションとして考えています。
ぜひ、宇宙教育というチームプロジェクトを通し成長していく彼らの姿を、一緒に見守っていきましょう。

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